ごあいさつ

私が当院に携わりはじめたのは二十数年前でした。当時は大学病院の研修医であり、週一回、派遣での勤務でした。当時の私はまだまだ未熟者で、大学での臨床が思うようにいかず、ふさぎ込みがちでした。しかし、前院長をはじめとした諸スタッフが快く迎え入れてくれ、自由な空気のなかで診療経験を積ませていただきました。
患者さんとともにバレーやソフトボールをしたり、バス旅行に行ったことも、今となっては貴重な体験です。運動会の後、皆ですすったカップ麺は、なんともおいしかったものです。そのような温かい雰囲気のなか、私自身も働きながら病院に支えられ、今の自分があるのだなと感じています。
このような自身の体験から「病院に支えられる」ということが、患者さんに限ったことではなく、患者さんの家族、携わっている職員に関しても言えることであり、それぞれの立場で、それぞれの立場を尊重しあい、自身の生きがい、やりがいを見出し支え合う。そのような形が、患者さんの利益につながる近道ではないかと思います。

当院は立地に恵まれており、日当たりが良く、様々な草木が見られ、時折、患者さんから庭に咲いている花をほめていただくことがあります。草木一本これ治療者、という言葉もありますが、各スタッフが、それぞれの職業意識を持ち、自分なりの形で患者さんの癒しに貢献している。
そのような環境であり続けられればと思います。

近年、精神疾患に関しての理解が深まっていることを感じている一方、メディアの報道などもあり、精神科病院に対しての不安、懸念が生じていることも否めません。しかし、精神科の敷居は決して高くありません。当院は不眠症や強い物忘れ、うつ状態、パニック症、心身症など、幅広く対応しており、ご希望の方には東洋医学(漢方)的診断治療も行っており、臨床心理士の協力によるカウンセリングや精神保健福祉士(PSW)による家族相談にも応じております。どうぞお気軽においでください。

前院長は半世紀以上、当院の顔として当院を守ってきました。その長きにわたって培ってきたものを活かしつつ、日々の知見、科学的根拠に基づいた治療や、様々な福祉、社会制度を提供し、これからのニーズにも十分対応していく所存です。(2017年6月記載)

上記あいさつ文を書かせていただいてから、およそ5年。

当院は2022年1月をもって、長年の間慣れ親しんでいた本館病棟を閉館いたしました。病院の顔といえる玄関や外来待合室などから離れるというのも、名残惜しい気持ちもございまして、今まで関わっていただいた患者さんやご家族の方も多少同じ気持ちなのかな?などと思う次第ですが、それに代わり、より刷新した外来機能、入院病床を兼ねた新病棟をスタートいたしました。

新棟建築にあたって、病棟建設や病棟改修工事等で近隣の方々や外部の病院様や、施設様にはご迷惑をおかけしておりました。以後も(旧)本館解体にあたりご迷惑おかけするところがございます点ご了承ください。
今後も、地域の皆様に寄り添った精神医療を提供してゆく所存であります。今後ともよろしくお願いいたします。

ちなみに昨今において、無視できないのは、新型コロナウィルスによる問題であり、医療全般ばかりでなく、経済、生活全般において大きく影を落としている現状であります。当院においても例外でなく、業務においてもさまざまな影響を落としております。新型コロナ感染の最前線で戦っている医療施設様と比較するのは大変おこがましい限りですが、当院においても感染対策のため、面会や外来業務に制限を行う状況もあり、入院患者さんや・外来の患者さんには不自由な思いをさせているところが心苦しい限りであります。

現場臨床を通じて感じるところ、精神科外来でも患者さんの様々な反応がみられたように思います。

まずは、コロナ問題による経済的・環境的変化から生じたストレス反応。また、密を避けるという圧力がボディーブローのように働いているような方などが度々見受けられます。
その一方、「密を避ける」という要請が心理的圧迫を減らし、過ごしやすくなったという方も一部ながらいたことは意外な反応でありました。そのような方は、日頃の社会生活に負い目や圧力を感じていた方であり、「密を避ける要請」が、精神的圧迫の軽減から一見安定されたように見受けます。ただ、それは手放しで喜んでいられるものではないと感じます。というのも、このような方の「密を避ける」という行為が、時と場合によって質の良くない「コーピング」になることがあり、かえってさらなる社会性を獲得する機会を失ってしまうという悪循環になってしまう可能性も危惧するところであり、そう単純な問題でないように思われます。

また、慢性的な休校・リモート授業・リモートワークなどからドメスティック(家庭内)問題が目立つ印象もございます。
対流が少なくなることにより、各cystに老廃物がたまるような現象は、各家庭、特に障害を抱えている家庭において想像に難くないと思われます。一見すると加害者側の攻撃性や病理を問題視してしまいがちでありますが、さらに深く立ち入ると、その加害者側とされていた方の家庭・組織内での病理的問題が潜在していることが多く、その根源の交通整理が必要と思われます。人というのは、生理的にすっきりしたいところがあるもので、どうしても加害者・被害者の単純図式で結論を下して溜飲を下して終わりにしたいところがございますが、治療者としては、家庭・組織内力動をじっくり読み解いたうえで、チーム内で問題共有していく状況を保ち続ける(一方通行の「モノローグ」でなく双方開かれた「オープン・ダイアローグ」的に)ようにしたいものであります(これが、なかなか難しいのですが…)。
これらの問題は、家庭だけにとどまらず、クラス・職場内にも通ずる問題なのだろうと、臨床現場を通じて感じるところであります。

われわれとしては、昨今のコロナ問題に関しても、感染対策は当然のことですが、地域の精神科という形で、このコロナ禍のメンタルヘルス問題に携わっていければと思う次第であります。(2022年 1月 追記)

                                                                               院長 木村 修